食堂に着くと、俺とチビイグニ様に気付いた火竜たちが、みんな仲良くポカンとした。

「あれ? イグニ様、大人しくないか?」
「カナデ様がご一緒だから?」
「じゃあ今回の食べさせ役は、かなり楽?」

 火竜たちは口々にそんな事を言っているが……もしかして、肉を食べさせる時も大変なんだろうか?

「……イグニは肉を食べる勢いで、指までかじる事もあるんだ」
「口の中の肉が無くなると、また騒ぎだすしな……」

 地竜王様と風竜王様がそう教えてくれるけど……確かに、小さいとはいえ火竜の牙にやられたら痛そうだし、再び騒ぎ出すならまた大変な事になりそうだ。

「ほらイグニ、食べるならカナデ君から離れて……」
「いやぁああぁぁああぁあああぁ!!」

 水竜王様が、チビイグニ様を座らせる為に俺から離そうとした瞬間、本日最大の大絶叫が聞こえた。
 その振動で置かれていた食器がカタカタと揺れているし、俺もちょっと耳が吹き飛ぶかと思ったが、一先ずは大丈夫だ。
 そしてチビイグニ様は、俺の服をしっかりとつかんで離す様子がない。

「……あの、大丈夫ですよ、このままでも」
「でも、チビでも重いでしょ? カナデ君が疲れちゃうよ」
「ありがとうございます。 でも、離した方が大変な事になりそうですし……俺なら大丈夫ですから」
「それはそうだけど……ごめんね、我儘チビで」

 水竜王様は申し訳なさそうに謝るが、チビイグニ様はプスーと怒っているようだ。
 しっかりとくっつきながらも、怒り気味のチビイグニ様を抱えたまま椅子に座ると、一口サイズに切られたステーキと子ども用のフォークが運ばれてくる。

「あー!! うー、あぅ!」

 チビイグニ様は小さな手を一生懸命のばして、フォークを取ろうとしている。
 フォークに一口ステーキを刺して渡そうとすると、受け取るより早く肉に食らいついてしまった。

「カナデ君、気をつけて!! その勢いで食いついてくるから!」
「……イグニ、カナデ君の指までかじったら、カナデ君が怪我をするのだぞ」
「あぅ」

 地竜王様に注意されたチビイグニ様は、若干釈然としない様子ながらも、先ほどのような勢いは無くなり、俺の渡すステーキをもごもごと食べている。
 そして、釈然としないのは竜王様たちも同じのようだ。

「毎回、あんなに苦労するのになあ」
「被害が最小限ですむなら、それに越した事はないがな」
「……小さくとも一人前に、番には弱いし独占欲もあるという事か」

 竜王様たちは腑に落ちないながらも、とりあえず納得はしたという感じで会話をしている。
 そうしているうちに、チビイグニ様は一口ステーキをペロリと平らげてしまった。
 豪快にソースを付けたチビイグニ様の口元をナプキンで拭き終えると、再び俺にピッタリとくっついてニコニコとしている……可愛い。

 俺が一緒に居る事で、これだけ大人しくなるなら大丈夫だろうと、地竜王様と風竜王様は宮に帰っていく。
 でも、もし万が一の事があったらいけないので、すぐに火竜に対処できる水竜王様は、今日一日は火竜宮に居てくれる事となった。

「カナデ君って、子どもの世話をした事あるの?」
「え? はい、旅の途中で、子守りの仕事をした事が何度かあります」
「そうなんだ。いや、なんだか慣れてる感じだったからさ。イグニもいつもこうなら、可愛いもんなのに」
「うー!!」

 水竜王様はそう言いつつ、俺にくっついたままのチビイグニ様のほっぺをつんつんと触ったが、チビイグニ様は不機嫌な声で唸る。
 なんだろう、つんつんされるのは嫌なのかな?

「元の姿の時はそうでもないけど、チビの時のイグニって、やたらと俺を敵視してくるんだよなあ」
「え、なんでですか?」
「俺が水竜だからっていうのもあるかもね。火竜たちは水が苦手だから」
「ああ、そういう意味で……」

 俺たちの会話を聞いているのかいないのか、チビイグニ様はほっぺをプクーと膨らませながら、水竜王様をジトっとした目つきで見ていた。
 しかし少したってから、すぐに俺の方に向き直って、何か言いたそうにしている。

「イグニ様、どうしました?」
「あぅ、まうー」

 チビイグニ様の小さな指が指す方向には、大きめの窓がある。
 外には、よく晴れた空の青色と、点々と浮かぶ白い雲が見えた。

「外に行きたいんですか?」
「あい!!」

 宮の内部を少し散歩するくらいなら、危険は無いはずだし大丈夫だろう。
 というか、この状態のイグニ様を宮の外部に連れて行くほうが、あらゆる意味で危険だろうな。

「イグニ、散歩に行くなら自分の足で歩きなさい。カナデ君に甘えるんじゃないよ」
「むぅ」
「チビでもお前は重いんだから。カナデ君が疲れるし、体を痛めてしまうだろう」
「……むぅー」

 ものすごく腑に落ちない表情のチビイグニ様だが、どうやら俺の体を気遣ってくれようとしているのか、かなりしぶしぶ降りてくれた。

「それじゃあ、手を繋いで行きましょうか?」
「! あい!!」

 チビイグニ様は小さな手を伸ばし、ニコニコと可愛らしい笑顔で俺を見上げている。
 普段はイグニ様の方が大きいから、逆の立場になるというのもなんだか新鮮だ。
 再びご機嫌さんになったチビイグニ様を連れて、俺達は宮の外へと向かった。


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