アルバをカナデの専属従者にしてから、必然的にロドが俺の専属状態になった。
 負担がかかりはしないかと思ったが、元々きっちりと仕事はやるタイプ、しかも午前中には終わらせてしまう手の速さなので、特に問題はおきていない。

「……なあロド、カナデは俺の事をどう思っているのだろうか」
「なんですか、いきなり。まあ、好きか嫌いかで言えば、好かれてはいるんじゃないですか?」
「そうだろうか?」
「嫌われてたら、毎日の食事やお茶を別にして欲しいと言われますよ。会話だってちゃんとしてくださるでしょう?」
「そうなんだが……人族には番と言う感覚が無いから、不安なんだ」
「ああ……確かに、ガイム様とヴィダ様は苦労なされてましたね」

 ロドの言うとおり、人族が番となった二人は、いろいろと大変だった。
 ガイムの番のグラノは元軍人、それ故に地竜王の番となり国を離れなければいけなくなった事に、たいそう不満を持っていた。
 加えて、彼の祖国では同性同士が伴侶となる考え方が無いに等しかったため、男同士の番である事を激しく拒絶したのだ。
 今でこそ和解し仲睦まじくなったが、最初の頃はガイムに散々泣きつかれたものだ。

 ヴィダの時も難儀なものであった。
 ウォルカは水竜王の番である事をあっさり受け入れてくれたから、問題はないと思っていた。
 しかし、貴族だったウォルカにとっては、政略的な結婚相手と同じようなものと割り切られていたようで、愛情などはヴィダの一方通行だったのだ。
 なので、会話やスキンシップ、口づけやそれ以上の行為もやらせてはくれるが、全て愛ゆえにでは無く、ただの義務のように思われていたという。
 ヴィダからも頻繁に相談を受けたが、それはそれできついな、と思ったものだ。

 それを思うと、エアラは運が良かったかもしれない。
 獣人であるフォトーは、初めから番の感覚を理解していたから、出合うなり相思相愛になったのだ。
 彼らに問題があるとすれば、ラブラブすぎてフォトーの体がもたなくなり、しょっちゅう医者が駆り出されていた事だろうか。
 兄弟の番たちの事を思い出していた俺を見て、ロドが再び口を開く。

「カナデ様は旅人でしたから、国や政略に関するしがらみは無いでしょう。問題は、男同士の番である事に、抵抗をお持ちかどうかですね」

 そう、それなのだ。
 このロンザバルエでは我々の番の事もあるし、部下や同胞たちの番も同性になる事が多いから、男同士、女同士の恋人や夫婦は当たり前の存在なのだ。
 しかし、近隣の国々は我が国と同じような文化だが、この国から離れた国では、同性同士が認められないような国も多くある。
 現にグラノの祖国もそうだし、ウォルカの祖国もその風潮が強い。
 カナデの出身国であるミヅキは、その手の文化としては半々といったところだろうか。

「それを差し引いても、まだ早いという感じはしますが」
「なに? どういう意味だ」
「カナデ様は、俺達から見たらもちろんですが、同じ人族である番様方から見てもお若いんでしょう? 実際、ヒナっぽいところがある方ですし」

 ヒナ……確かに、そんなところはある。
 普段のカナデは落ち着いているほうだが、甘味に目を輝かせていたり、とろんと眠たそうにしている時など、特にそうだ。
 幼子に手を出すなと、茶会の時に兄弟に言われたが……カナデの素性を知った今なら、その言葉に納得できる。
 自分を守るために、必要以上に人に関わらぬよう生きてきたあの子は、きっとまだ恋や愛に疎いのだ。
 だから、今の時点での俺がカナデから得ている信頼は、まだ恋にも愛にも満たない、微妙な立ち位置のものだろう。

「それに今が一番、注意しなければならない時期かと思われますよ」
「なんだと?」
「俺達なら番であるというだけで無条件で相手を愛せますが、人族であるカナデ様には番の感覚が分かりませんから」
「……それは分かっている」
「今のところカナデ様の中では、イグニ様の猛アタックは許容範囲なんでしょう。ですが、どこかで間違えてしまったら、嫌われてしまう可能性がありますよ」

 ロドは笑いながらも、痛いところをついてくるな。
 今のところは、カナデは俺を許してくれている……だが、カナデに何をしたら嫌われるのか、俺には全く分からない。
 竜人である俺には、あの子たち人族の感覚が分からないのだ。そしてそれは、竜人の感覚が分からないカナデたちにも言える事だろう。
 感覚が分かっているエアラとフォトーでさえ、意見が合わずに言い合いになる事もあるくらいなのだからな。

「火竜同士のお前たちでも、言い争いはするのか?」
「あはは、むしろ殴り合いレベルですよ。まーその後は、いつもの倍は激しく愛し合いますけどねー」
「……惚気竜め」

 断じて許せないような事を言われたとしても、あの愛らしいカナデを殴るなんて、俺には絶対に無理だ。
 そもそも火竜の俺が、怒りに任せて人族のカナデを殴ってしまったら、今度こそ本当に死んでしまうかもしれない。
 殴るぐらいならいっそ、降参するまで抱きしめて愛でてやりたいんだが。
 
 ……あ、そうすればいいんじゃないか?
 番の感覚があろうがなかろうが、好意的な態度は嬉しいものだし、逆に横暴な態度や暴言には怒ったり傷つくものだろう。
 ならば、調子に乗って一線を越えぬように気をつけながら、カナデの言葉に耳を傾け理解するよう努め、愛でながら大事にするのが、一番の方法ではないだろうか。

 もっとたくさん、カナデと話をしよう。あの子の気持ちを、少しでも理解できるようになろう。
 あの子を傷つけるものがあるならば、いつだって俺がカナデの盾になろう。
 カナデには一秒でも多く、心から笑っていてほしいから。


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