なんだかんだで時間が過ぎていき、ついにパーティー当日。
 パーティーの事をアルバに聞いたら、基本的には要人たちの交流会で、近隣諸国の王族や貴族に将軍、魔導士長や商会長たちが出席するそうだ。
 先日の面会希望者のような礼儀知らずはほとんど居ないはずだが、もし居たら火竜総出で捻り潰すから安心してほしいと言われた。

 そして、自由な風習のロンザバルエではあるが、パーティーでのルールはちゃんとあるのだという。
 一つ目は乱闘や大声での論争、喧嘩でなくとも室内で暴れたり走り回ったり、必要以上の大声で騒ぐ、などの迷惑行為の禁止。
 それは普通に良くない事だし、禁止なのは分かる。

 二つ目は禁止行為ではないし、ローカルルールに近いのものだそうだが、自分の席に着いている人には、同じテーブルの人以外は話しかけない、というもの。
 これには理由があって、ロンザバルエのパーティーの場では、自分の席に座るという行為が「食事中または休憩中」を表しているらしく、休んでいる時に身内以外が割って入るのは失礼な行為、と見なされるのだそうだ。
 そういうルールを作っておかないと、四竜王様と番様のテーブルに人だかりができてしまい、飲み物も碌に飲めない、という背景があったのだという。

 会場では、参加者全員の席が壁際に用意されていて、真ん中に広く設けられた交流スペースに立っている時は、気兼ねなく話しかけてもいい、という事になっている。
 喉が渇いたりお腹が空いた時は席に座り、席に置いてあるメニュー表から食べたいものを選んで、傍にいる給仕の竜人に頼んで運んでもらうのだそうだ。
 ちなみに用を足しに行きたい時は、壁と柱の間にある給仕用の通路をこっそり通っていけばいいとの事。

 ……と、だいたいはそんな感じだそうだが、席についている時はいいとして、問題は交流スペースに居る時だ。
 イグニ様はそんなに畏まらなくていいと言ってくれているが、それでもちゃんと挨拶できるか不安だし、緊張もしている。
 俺にとっては全員が初対面なわけだし、今の俺の立場では、注目されること間違いなしだし。

 しかし、会場に入ってすぐには注目されたが、挨拶に来る人は皆きちんとした人ばかりで安心した。
 面会希望者の話を聞いていたから、あれこれ嫌な事を言われるんじゃないかと心配していたが、杞憂だったみたいだ。
 よくよく考えれば、火竜王であるイグニ様が隣に居るんだから、そんな命知らずな事は出来ないよな。
 それを思うと例の面会希望者たちは、後先考えていないか、勇気があるのに使い方の方向性が間違っているという事だろうか……?

 だが、挨拶してくれた人たちが錚々たる顔ぶれで、以前のお茶会の時ほどではなくとも、若干圧倒されてしまった。
 北の隣国の第二王子殿下、東の隣国の将軍閣下、南の隣国の魔導士長様……。
 今までの旅人生活だったら、まずお目にかかれない各国の要人たちが丁寧に頭を下げてくるものだから、根っからの平民の俺は気後れしてしまう。
 どの人にも失礼じゃない言葉を選んだつもりだけど、大丈夫だよな?
 俺だけが怒られるならいいけど、イグニ様やアルバたち火竜にまで迷惑がかかってしまったら、もうどうしたらいいか分からない。

 なんとか挨拶を続けているけれど、さすがにちょっとへろへろになってきた。
 すると、イグニ様が小声で「もう終わる」と囁いた……どうやら挨拶は一区切りついたようだ。
 最後に西の隣国の公爵様との会話を終え、やっとの思いで席に着く。
 みっともない姿は見せられないと気を張っていたけれど、残念ながらもう俺はしっかりとふにゃふにゃだ。

「カナデ、よく頑張ってくれた。ありがとう」
「はい……あの、俺、大丈夫でした? 変な事を言ったりしませんでしたか?」
「ああ、大丈夫だ」

 イグニ様の言葉に、とりあえずはちゃんとできたのだと安心する。
 同じテーブルである他の竜王様と番様たちは、まだ交流スペースで話をしているようで、座っているのは俺たちしかいない。

「カナデ様、何か召し上がりますか?」

 へろへろの俺に気を遣ってくれたのだろう、アルバがメニューを出してくれる。
 ずっと話していたから、喉が渇いたな……あと、何か軽く食べたい。

「ありがとう。えと、飲み物……レモネードがいいな。あと……あ、ほうれん草ときのこのキッシュをお願い」
「ついでに、赤ワインとローストビーフも頼んでくれ」
「かしこまりました」

 アルバは手早くメモを取り、俺とイグニ様の注文を給仕に渡す。
 パーティー中に酒を飲んで大丈夫かなと思ったけど、そういえばイグニ様は酒に酔わないタイプだと言っていたな。
 イグニ様にとっての酒は味のついた水と変わらないけど、やはり多少の刺激が違うとかなんとか。
 俺も酒は好きだけど、うっかり飲み過ぎるとしっかり酔う上に、次の日に起きられないおまけ付きなんだよな……。

 どれだけ飲んでも平気なんて、なんて羨ましい。
 そんな思いでイグニ様の方を見たら、愛しむかのように微笑まれてしまった。
 元々顔が良いのに、そんな風に笑われたら反則だと思う。
 しかもロド曰く、イグニ様がそういう表情をするのは、俺の前だけだって話だし……やっぱり反則だ。

 なんだか少し暑くなってきたな、と思いながら、運ばれてきたレモネードで乾いた喉を潤した。


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