夏の暑さも和らぎ、朝晩の風が冷たく感じるようになってきた。
 火竜たちのテンションが上がる夏が終わり、秋がやってきたのだろう。
 その証拠に、ここ最近の火竜たちはどことなく寂しそうで、鼻歌を歌ったり回転しながら仕事をしていたのが嘘のように、テンションが下がっている。

「おはようございます、カナデ様」
「おはよう、アルバ。なんだか寒くなってきたね」
「そうですね、残念ながら秋になってしまいましたから。仕方のない事とはいえ、名残惜しいものです」
「そっか……そういえば、秋や春は他の竜人のテンションが上がったりするのか?」
「はい、秋は地竜、春は風竜の季節ですね。今頃地竜宮では、謎の石像が至る所に現れたり、周辺が耕されまくってると思いますよ」
「なにそれすごい」

 やっぱりそれぞれの季節に、それぞれのテンションの上げ方があるって事か。
 火竜宮は純粋に暑くなるだけだったけど、別の季節の他の宮の様子も気になるところだ。
 ひんやりとした空気を感じる廊下を歩いて食堂へ向かうと、やはり少し寂し気なイグニ様とロド、火竜たちの姿があった。

「カナデ様、本日のお食事より、秋冬向けのメニューに変更させて頂きます」
「分かった、ありがとう」

 総料理長のロージェンはそう言いながら、俺の前にポトフを置いてくれた。
 イグニ様やロドがしっかりした顔立ちのイケメンなら、ロージェンは柔らかい感じの……よく言う、甘いマスクという感じだろうか。
 他の火竜たちも、男前、美丈夫、渋いという単語がぴったりの人が多い中で、比較的童顔なアルバは可愛く見えてしまうな。
 ……まあ、一番小さいのは俺なんだけど。

 だけど小さいとはいえ、イグニ様の番だから皆よくしてくれる……俺が皆に対して、敬語やさん付けにして話したり名前を呼ぶ事さえ、畏れ多いとか言われて大変だったから、結局タメ口の呼び捨てで落ち着いたんだよな。
 フラムさんだけは「お好きなようにお呼びください」と言ってくれたし、俺以外の皆もフラムさんと呼んでいるから、そのまま呼んでいるけれど。
 そんなこんなを思い出しつつポトフを口に運ぶと、スープの温かさがお腹に染み渡っていった。

「カナデ、そろそろ寝具や服も暖かいものに変えた方がいいだろう。体を冷やして、風邪をひいてしまうといけないからね」
「はい、ありがとうございます」
「もし耐えられないほど寒いという時は、遠慮なく俺にくっついてくれて構わないぞ?」

 この前の俺の失言を覚えていたのか、イグニ様は冗談っぽくもほとんど本気な様子で笑いながら言った。
 その様子に、アルバとロドだけでなく、ロージェンまで呆れ気味だ。

「くっつくと言えば……やっぱり冬の火竜宮は、他の宮より暖かいんですか?」
「そうだな、火竜が集まっている影響もあって、冬は比較的に過ごしやすいようだ」
「そうなんですね……よかった、俺、暑いより寒い方が苦手なんです」
「それならちょうどいいかもしれんな。だが、やはり耐えられないようなら、いつでもくっつきに来てくれて構わないぞ?」
「……イグニ様、いい加減、変態っぽいですよ」

 どうしても俺にくっつきに来てほしいイグニ様に、ロドがさり気なく釘をさす。
 そんな様子を苦笑いで見つめながら、温かいミルクティーの入ったカップに口を付けた。

 朝食を終え、執務室に向かうイグニ様を見送った後、いつもの様に菜園に向かう。
 秋は花を中心に育てることにしたから、コスモスや秋バラ、それにアロエやミントといった、ハーブにも手を出してみたのだ。

「花はどれも綺麗だけど……時期が終わってからも、活用する方法はあるのかな」
「そうですね……枯れる前に保存して、飾りにするというのはよく聞きますが」

 アルバの言うような飾りは、俺も聞いた事がある。
 多分、押し花とかリースとかがそれにあたるんだろう。

「飾る以外にも何か無いか、ちょっと調べてみようかな」
「では、図書館に行かれますか?」
「うん。あ、でも、明日にするよ。いきなり今日だと、ノルスさんに迷惑だろうし」
「分かりました。では今日のうちに、先触れを出しておきますね」
「ありがとう」

 生花のままでも十二分に綺麗だけど、その後の活用法があるなら、是非参考にしたい。
 種類によって違う方法もあるだろうし、何かの役に立つこともあるはずだ。
 そんな事を考えつつも昼食後、イグニ様とまったりとした時間を過ごす。

「やっぱり秋だから、日が短くなってきましたね」

 窓の外は綺麗な夕焼けだが、時間は夏より早い。
 冬になってもっと寒くなってきたら、もっと早い時間に日が落ちるだろう。

「ああ……あまり夜が長いというのも、気が滅入ってしまうものだ」

 イグニ様はなんとなくしょんぼりしつつ、窓の外を見て言った。
 やはり夏が大好きな火竜にとっては、日が長い方がいいのだろうか。

「でも、秋は食べ物の美味しい季節ですよ」
「確かに、収穫の季節ではあるな。……収穫と言えば、これから秋にちなんだ催しが多く行われるよ」
「収穫祭とかですか?」
「ああ、それに文化記念祭や秋の感謝祭、モフモフ祭りなどもあるな」

 どうやらロンザバルエでは、秋の催しがいくつか行われるみたいだけど……俺としては、モフモフ祭りがむっちゃ気になる。

「どの催しも開催まで日があるし、毎年、実行委員会が気合を入れまくって準備するから、我々が特別に何かする事は無い。強いて言うなら、スポンサーである、というくらいだからね。カナデも当日まで、ゆっくりしていて大丈夫だ」
「分かりました」

 なんとなく名前から想像できるものと、具体的に何をするのか分からないものまで、色々あるけれど……。
 でもやっぱり、イベントというだけで楽しそうだし、いい思い出にもなりそうだ。
 特にモフモフ祭りは、名前からして、素晴らしいイベントのような気がする。
 やりたい事も楽しそうな事も本当にたくさんで、これから始まる本格的な秋が、とても楽しみになった。


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