花のその後の活用法を求めて、図書館に足を運んだ翌日。
 なんだかいつもより賑わいをみせている読書スペースには、普段あまり見かけない人の姿も見える。
 いつもの様に奥の書庫へ向かうと、そこには箱にまみれて作業をしている、ノルスさんの姿があった。

「おや、カナデ様、いらっしゃいませ。本を読まれている間、アルバを借りてよろしいですか?」
「何かするんですか?」
「昨日から、秋の読書フェアが始まりまして。来館するごとにカードにスタンプを一つ押し、それが十個たまった来館者さんには、ささやかなプレゼントを渡しているんですよ。大人向けにはタオルや石けん、子ども向けにはお菓子の小袋ですが、好きなものを選べるようにもしています」

 なるほど、図書館でもそういう秋のイベントをしているのか。
 ノルスさんの周りにある箱は、その景品が入っているのだろう……ちらりと覗いてみたら、落ち葉のワンポイントが縫われている可愛らしいタオルや、コロンとした丸型の石鹸が入っていた。

「業者の方に直接発注しているので、お菓子以外はケースで来ているんです。なのでこの時期は、ラッピングが大変なんですが……いやあ、丁度よく人出が増えてよかったよかった」
「俺が手伝う事が、確定してないか?」
「私としては、カナデ様に手伝って頂いても構いませんよ? ただその場合は、せっかくの本を読む時間が無くなってしまいますね、残念残念」
「……ノルスはやっぱり、竜使いが荒い」
「誉め言葉として受け取っておきましょう。カナデ様のご希望の本はこちらに出しておきましたので、ごゆっくりどうぞ」
「ありがとうございます」

 ノルスさんはアルバの言葉をさらりと受け流し、俺の為に出しておいてくれた本を渡してくれた。
 アルバはいきなり手伝う事になって大丈夫かな、と思ったけど「よくある事なんで、お気になさらないでください」と言われてしまった……よくあるの?
 ちょっと気になりつつも、本を持っていつものソファに座り、一冊目のページを開く。

 今の俺が育てられる植物の中では、やはり食用やそれ以外にも使えるハーブの用途が多い。
 食べる以外に香り付けにも使えるし、石けんやキャンドルにも加工できて、ポプリにすれば殺菌や防虫の効果まであるという。
 今育てている秋バラや、夏に咲かせたヒマワリの種も、ハーブティーやオイルに加工などの方法があるみたいだ。
 特にハーブティーは種類によっていろんな効能があるし、乾燥させて保存するようだから、日持ちもする。
 同じく、頭痛や腹痛、冷え性や火傷などに効果のある、薬の原料になる植物もたくさんあるし、魔法薬の材料になるものも少なくない。
 見た目で楽しむのなら、いろんな花のドライフラワーもいいし、ハーバリウムを作るのも楽しそうだ。

「あれ、カナデ君、調べものですか?」

 俺がアレコレ考えながら本を読んでいたら、ウォルカさんが専属従者の水竜と一緒にやってきた。

「あ、ウォルカさん。今、菜園で育てている植物を活用する方法を調べていたんです」
「そうですか。勉強熱心でなによりです」

 そう言ってウォルカさんは微笑み、ノルスさんに頼んでいたであろう本を受け取った。

「こちらも人出が増えて、なによりですよ。ねえ、ミディオ?」
「……こっちが何を言おうと、手伝わせるんだろう」
「おや、よくお分かりで」

 ノルスさんの言葉に、ウォルカさんの専属従者の水竜……会話からしてミディオさんが、半ば呆れながら返答した。
 ミディオさんは水竜だからか、火竜を見慣れている俺からすると、けっこうクールでシャープな印象を受ける。
 見た目はロドを青くして、目を少し切れ長にして髪をかなり伸ばした感じ……つまり、顔立ちがしっかり系のイケメンだ。
 でも、やはり色の印象もあると思うが、ロドは荒事の方が得意そうに見えるけど、ミディオさんは頭脳戦の方が得意そうな雰囲気を感じる。
 そんなミディオさんとノルスさんの様子を見ていたウォルカさんは、若干苦笑いしつつ俺の隣に座った。
 そしてその手には「激震の魔法薬学 ~調合は爆発だ!~」というタイトルの本が……爆発って。

「カナデ君、どうかしましたか?」
「あ、すみません。すごいタイトルの本だなと思って」
「ふふ、そうですね。ですが、中身は意外と真面目な内容なんですよ。この本に載っている調合を、いくつか試してみようと思いまして」
「……本当に、爆発したりしませんよね?」
「大丈夫ですよ。仮に爆発したとしても、私とミディオが黒こげアフロになるだけでしょうね」
「う、うまく想像できません」

 こんなにクールビューティー系のウォルカさんと、クールイケメン系のミディオさんが、黒こげアフロ……?
 それは見たいような、見たくないような。
 向こうでは、ウォルカさんの話が聞こえていたらしいアルバとノルスさんが、ミディオさんを見て噴き出していた。

 黒こげアフロに気を取られつつも、そのまましばらく本の続きを読んでいたが、昼食の時間が迫って来た事もあったので、いい頃合いで図書館を後にする。
 別れ際、手伝いと黒こげアフロ発言のせいかミディオさんは腑に落ちない表情だったが、二人の手伝いのおかげでラッピングがとても捗ったらしく、ノルスさんはすごくご満悦だった。


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