四竜王様と番様の交流と近況報告を兼ねた、いつものお茶会。
 だが、今日は珍しく、水竜王様とウォルカさんのペアがまだ来ていない。
 二人とも予定の時間より早く来るタイプの人だし、欠席するという連絡も無いみたいだけど……。
 どうしたんだろうと思っていると、入口の方から聞き慣れたウォルカさんの声がした。

「すみません、遅れてしまいました」
「あ、ウォルカさ……」

 俺は振り向きざまに絶句した。
 入ってきたウォルカさんは、車椅子に乗った状態で頭や腕、足にも包帯をしているという、とても痛々しい姿だったからだ。

「ウォルカさん、その怪我は……!?」
「すげー傷だらけじゃん!! どうしたんすか!?」
「一体何があったんだ!?」

 俺と同様に驚いたフォトーさんとグラノさんも声を上げる。
 そんな俺たちを見て、ウォルカさんは少し困ったように笑ってから、事情を説明してくれた。

「すみません、驚かせてしまって……でも、見た目より酷い怪我ではないんです。ヴィダ様とミディオと水竜達の過剰すぎる治療で、こうなってしまっているだけですので……」
「何を言ってんの、俺としては今すぐにでもベッドに戻って安静にして、ウォルカの玉の肌が綺麗に治るまで、しっかり見守り続けたいのに」
「そうですよ、あんな爆発に巻き込まれたんですから……文字通り、心臓が飛び出るかと思ったんですからね」

 ウォルカさんの言葉に反応したのは、水竜王様とミディオさんだ。
 ……というか、今、爆発って聞こえたんだけど。

「……水竜宮で何かあったのか?」

 ウォルカさん達に問いかけたのは、地竜王様だ。
 すると三人は少し困ったような表情になり、茶会の席に着いてから話を始めた。

「実は、魔法の薬の調合をしていた時に、うっかり失敗してしまいまして。その影響で、器になっていたガラス瓶が暴発し、その破片が飛んできて、怪我をしただけの事なんですが……」
「それだけじゃないでしょ、その勢いに吹き飛ばされて、頭を打っちゃってるじゃないか」
「それに、切り傷の方だって……すぐに止血しなければいけないくらい、血が出ていたんですよ」

 ウォルカさんの言葉に、水竜王様とミディオさんが状況説明を付け足した事で、だいぶ酷い事故だったのだろうと想像できる。
 魔法薬用のガラスの瓶が爆発するなんて、それだけでけっこうな威力がありそうなものだし、すぐ傍に居たウォルカさんが怪我をしてしまったのも納得だ。

「そんな状況で、出てきて大丈夫なのか?」

 心配そうに尋ねたのはイグニ様だ。
 確かに、見るからに痛々しいこの状況なら、無理せず安静にしてた方がいい気がするけど……。

「事故から日は経っていますし、傷は塞がっていますので、大丈夫ですよ。この包帯も、念の為にと付けられてしまいまして……車椅子の方も、乗らないと連れて行けないとヴィダ様が言うものですから……」
「心配に決まってるでしょ、ウォルカは俺の唯一なんだから。君がどうしてもと言うから、条件付きで茶会に出席するって約束にしたじゃないか」
「ええ、その事については、感謝しています。このところ外どころか部屋からも碌に出れず、少し気が沈んでいましたから」

 ウォルカさんがそう言って微笑むと、水竜王様は少し困りつつもニッコニコになっていた。
 イグニ様もそうだけど、やっぱり他の竜王様も、自分の番にはいろんな意味で敵わないんだろうな。

「……それでも、やはり大げさな気はしますが」
「そんな事はないよ。むしろ足りないくらいだし」
「そうですよ」
「ヴィダ様もミディオも、心配性ですね」
「心配にもなるよ、ただでさえウォルカは、我慢しなくていい事まで我慢するんだから」

 ウォルカさんと水竜王様たちの話を聞いていると、竜人たちの方が過保護のように聞こえるけど……もしかしたら、ウォルカさんも人より無理をしがちな人なんだろうか。
 元々は遠くの国の公爵令息だって聞いたし、俺のような一庶民では分からないような苦労があったのかもしれない。
 それに、家族とも不仲で、彼らも良い人とは言えなかったって感じみたいだし……。

「ウォルカ君は、今度は何の薬を作っていたんだい?」

 少しばかり微妙になってしまった場の空気を変えてくれたのは、グラノさんだ。
 その質問を聞いたウォルカさんは、魔法の薬の話題になった事が嬉しいのか、とても楽しそうに話す。

「はい、浮遊薬というもので、薬を使った物質を一時的に宙に浮かせる事ができるんです。上手く改良できれば、浮くタイミングをコントロールして、建築や配送などの作業に役立つのではと思いまして」
「なるほど、確かに重い荷物を運ぶ時などは便利そうだ」
「それ、俺に使えば俺も浮いたりできるって事!?」

 ウォルカさんの説明を聞いたグラノさんは感心し、フォトーさんは自分に使うという意味で期待しているようだ。
 でも自分が浮くというのは、確かに楽しそうではあるな。

「ええ、薬として使うより、魔道具に出来ないかと考えているんです。その方が人を選びませんし、いろんな場所にも使えそうです」
「へー!! じゃあその魔道具出来たら、俺乗ってみたい!!」

 浮く魔道具に乗る気満々なフォトーさんだが……実際に乗り物になるとしたら、どういう感じになるんだろう?

「それって、舟のような乗り物が浮くって感じですか?」

 俺が質問したら、ウォルカさんは一瞬ハッとして、すぐに考え込んでしまった。
 なんだろう、俺、変な事を聞いちゃったかな……?

「……舟……そうですね、確かにそういった明確な形を先に想定しておいた方が、魔道具として製作しやすいでしょう……ですが大きすぎれば小回りが利かず移動場所が限定されますし、逆に小さすぎても用途の方が制限されますし……」

 ウォルカさんの中で何かのスイッチが入ったのか、悶々と呟き続けている。
 しかしそれも束の間、ミディオさんがそっと肩に手を触れた事で、ウォルカさんは思考の世界から帰ってきた。

「あ、すみません、つい考えこんでしまいました。どういったものになるかは、これからの試作と改良次第になると思いますよ」

 そう言って楽しそうに話すウォルカさんを見て、なんだか微笑ましい気分になる。
 筋トレの話をするグラノさんや食べ物について語るフォトーさんもだけど、やっぱり好きな事に夢中になっている人を見ると、こっちまで楽しい気持ちになるものだ。
 その後も終始和やかな雰囲気のまま、今日のお茶会は平和に終わっていった。
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