今日は嘘をついてもいい日らしい。
 お遊び気分で、イグニ様に嘘をついてみようかと思った……しかし、内容が思いつかない。
 大嫌いとか本気で出ていくとか、そういう洒落にならないやつは駄目だ。
 あくまでお遊びなんだから、相手が傷つかない、笑える内容にしないと。
 かと言って、実は肉や甘味が嫌いとか言ったら、多分みんな気を遣ってくれるから、後から俺が悲しい目に合う予感がしている。

「考えて嘘をつくのって、難しいな」

 俺は自分の素性の事もあって、いろいろ誤魔化すのは得意だった。
 だが、それもほとんど有耶無耶にする程度の事で、はっきり嘘をついた事など数える程度しかないのだ。
 それも自衛の為にとっさに出たもので、誰かを陥れようなんて事は一切していない。
 それをしたら、後から面倒な事になると分かっている……いろんな所で、反面教師たちを何人も見てきたからな。

「怪我をしたとか具合が悪いとか……いや、心配させるようなのも駄目だな。えーと……眠れない時は羊を数える……それはなんか違う。うーん……」
「なにを呟いているんだ?」
「うわぁびっくりした!!」

 いつもの恒例、気付かないうちにイグニ様が来ていた。
 窓際のテーブルで、アルバとロドがティーセットを用意していたから、休憩のお茶をしに来たのだろう。

「具合が悪いと聞こえたのだが」
「あ、それは誤解というか……大丈夫です、悪くないです」
「そうか。だが、本当に具合が悪い時は、すぐに言ってくれ」
「はい」

 心配されつつも、イグニ様と席に座る。
 結局、嘘の事は何も思いつかなかったな……でも、やらなきゃいけないというわけじゃないんだし、まあいいか。

「カナデ」
「はい」
「実は先ほど、未確認飛行物体を発見した」
「未確認飛行物体?」
「恐らく異世界から飛来したと思われる、銀色の円盤型だ」
「それ、どこですか!? 一度見てみたかったんです!」
「……え? あ、いや、今のは……」
「北のサーダル山で見れるって、以前に話題になったやつですよね! ロンザバルエでも見れるなんて!」
「……すまない、嘘なんだ」
「え」

 これは……イグニ様の考えた嘘、ということか?
 そうだよな、落ち着いて考えたら、そんな物体がホイホイ現れる事は無いだろう……すっかり信じてしまった。恥ずかしい。

「今日は嘘をついてもいい、という日だったから……すまない、まさかそんなに興味があったとは」
「あ、いえ……」

 俺は恥ずかしさで俯き加減になったのだが、イグニ様はショックを受けたと思ったのだろう。
 若干おろおろしながら、申し訳なさそうに俺の様子を見ている。

「イグニ様」
「なんだ?」
「イグニ様の好きな金平糖の原料は、海の砂です」
「な、なんだと!?」
「嘘ですよ」
「……カナデー?」
「ふふ、これでおあいこですね」

 今さっき自分で仕掛けたというのに、まさか直後に引っかかるとは。
 顔を赤らめつつ照れている、ある意味ドジっ子なイグニ様が、なんだか可愛く思えてくる。
 こんな些細な冗談で笑いあえる俺たちは、きっと幸せなんだろう。



 数日後にアルバとロドから聞いたのだが、洒落にならない嘘をついてやらかしてしまった恋人や夫婦たちは、現在修羅場真っ只中らしい。
 その中には風竜王様とフォトーさんもいて、番否定の嘘にフォトーさんが怒って、風竜宮は阿鼻叫喚状態だから、しばらく行かないほうがいいのだとか。

 ……うん、やっぱり、洒落にならない嘘はよくない。


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